水・電解質異常
水と電解質は、生命が生きていく上で欠かせない極めて重要な成分です。人体では血液・筋肉・骨などすべての組織の細胞内や細胞外、そして血管内に存在します。これらがバランスよく分布し行き交うことで、細胞・組織は正常に働くことができます。ナトリウム(Na)・カリウム(K)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)・塩素(Cl)・リン(P)・重炭酸(HCO3)の各イオンがその代表になります。これらの調整を、各内分泌臓器が分泌するホルモンや腎臓・消化管などが行っています。主に血液や尿中の成分を測定することで、生体が正常な状態か否かを判断することができます。
低ナトリウム血症や高カリウム血症など様々な種類の異常がありますが、いずれもある病気・病態でみられる現象です。これらが存在すると、様々な症状(後述)を認め生活に支障をきたすことになります。その原因疾患を診断するには、綿密な問診・精査と評価が必要です。これらの異常が重症であったり、長期間にわたり持続すると、心臓・腎臓・脳などの臓器に不可逆的な障害を起こし生命に危険を及ぼすことがあるので、早期に適切な診断と是正することが必要です。治療も原因疾患により様々であり、専門医による計画的な診療が必要です。
主な水・電解質異常と原因疾患・病態
脱水
状態 | 血管内外の水分が不足した状態、さらには細胞内外の水分が不足した状態 |
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タイプ | 塩分喪失も伴うもの、伴わないものに分かれる |
症状 | 脱力・倦怠感・低血圧・頻脈・意識障害(重症では死亡例も) |
原因 | 発熱・下痢・嘔吐・異常な発汗・高温の環境下での作業・激しい運動・過剰な利尿剤 |
治療 | 適切な水・ミネラル補充と管理が必要 |
低ナトリウム血症:血清Na値135mM以下
状態 | 血液中の「塩分」濃度が低下した状態。水分過剰でも、塩分不足でも、その他の原因でも起こりうる頻度の高い電解質異常。 |
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症状 | 頭痛・意識障害・食欲不振・倦怠感 |
原因 | 感染症(呼吸器など)・ストレス・水中毒(飲み過ぎ)・悪性疾患(SIADH)・高齢者・心不全・腎不全・副腎不全・肝不全・薬の副作用など |
治療 | 原因次第であるが、全てにおいて緩やかな補正が基本。 |
高ナトリウム血症:血清Na値145mM以上
状態 | 血液中の塩分濃度が過剰となった状態、水分だけが不足することで起こりやすい。電解質異常では頻度は低い。 |
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症状 | 頭痛・意識障害など |
原因 | 尿崩症(多尿・口渇・脱水)、極度の脱水 |
治療 | 輸液・経口補水など |
高カリウム血症:血清K値5.0mM以上
状態 | 血液中のカリウムが過剰な状態。細胞内外でも過剰である。 |
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症状 | 軽症例では全く症状を認めないが、重症例では体に酸が過剰に貯まり、危険な不整脈(時に心停止)を起こすため、緊急性を要する。 |
原因 | 急性腎不全の発症時、又は慢性腎不全におけるカリウム摂取過剰、副腎不全・低アルドステロン血症、一部の降圧薬の副作用 |
治療 | 原因次第、薬物治療や食事制限、重症例では緊急透析療法 |
低カリウム血症:血清K値3.5mM以下
症状 | 重症例で多尿、筋力低下、不整脈、心筋障害、腎障害 |
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原因 | 嘔吐・下痢・過剰な下剤使用・慢性の低栄養・慢性のアルコール中毒・マグネシウム不足・原発性アルドステロン症・偽性アルドステロン症(漢方薬)・クッシング病・ギッテルマン症候群・バーター症候群・偽性バーター症候群(利尿薬使用)・尿細管性アシドーシスなど |
治療 | 原因次第、カリウム補正、原因となる薬剤の中止、食事や薬物療法、手術を要する疾患もあり |
高カルシウム血症:血清Ca濃度 12mg/dL以上
状態 | 血液中のカルシウム値が高く、多尿になっていることが多く、脱水を伴っていることが多い |
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症状 | 多尿・口渇・食思不振・胃部不快感、重症例で頭痛・意識障害・腎不全 |
原因 | 原発性副甲状腺機能亢進症・ビタミンD過剰症・利尿薬服用・悪性腫瘍など骨の破壊性病変を伴っているケースが多い |
治療 | 原因次第。重症・有症状例では点滴などによる脱水・Ca値の補正が必要。原因疾患の治療や骨破壊を抑制する薬を使用する。 |
低カルシウム血症:血清Ca濃度 8.5mg/dL未満
症状 | 重症例で手足の痺れ |
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原因 | 慢性腎不全・副甲状腺機能低下症(甲状腺全摘術後)・くる病(ビタミンD欠乏症・代謝異常など)・慢性の低栄養 |
治療 | Ca製剤やビタミンD製剤の内服を行う。 |
高リン血症:血清P濃度 4.5mg/dL以上
状態 | カルシウム代謝の一環として起こり、高カルシウム血症に伴うものと低カルシウム血症に伴うものがある。 |
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症状 | 特に無し、腎不全期で長期持続すると血管の石灰化と生命予後に強く影響する。 ※ 高リン血症は腎疾患の有無にかかわらず死亡リスク・心臓病発症リスクに強く関わっている可能性が示唆されており、予防の観点から健常人でも3.0mg/dL台が望ましい。 |
原因 | 慢性腎不全・ビタミンD過剰症・多発性骨髄腫・タンパク質や加工食品の過剰摂取など |
治療 | 腎不全であればタンパク制限・リン吸着剤を、ビタミンD過剰であれば原因となる薬剤の中止を行う。 |
低リン血症:血清P濃度 2.5mg/dL未満
状態 | 細胞(筋肉・神経など)が活動するために必要なエネルギーのもとになるのがリンであり、この欠乏は重度であれば昏睡や痙攣などが起こる。 |
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症状 | 重症例では意識障害・不整脈・心不全・呼吸筋低下 |
原因 | 原発性副甲状腺機能亢進症・慢性の低栄養・慢性のアルコール中毒・下痢・制酸薬内服・腎尿細管障害 |
治療 | 原因次第、Pの補正や飲酒や原因薬剤の中止、手術治療などがある。 |