腎臓内科とは “木を診て、森も診る”
腎臓や尿に関わる疾患を内科的に診断・治療するのが腎臓内科です。主に血尿やタンパク尿が続く方、腎機能が低下した方などが対象になります。
しかし、後述のように腎機能の低下が進行すると、全身の血管・臓器の衰えも認めるため、全身に気を配りながら診療する必要があります。
いちかわ新聞掲載記事より
腎臓とは
身体の中央・背中側に左右に一つずつ、左は胃・膵臓の真下、右は肝臓の真下に位置しています。主に尿を作っていることは皆さんもご存知かと思います。以下に、腎臓の主な働きを示します。
血液を濾過するのは糸球体という組織です。検診や病院で評価される腎機能は、この糸球体の濾過量というもので、血清クレアチニン値で表されます。水やミネラルの調整、造血ホルモンの分泌は尿細管という組織で行われています。
これらが障害されると、様々な症状を起こし、最終的に機能しなくなると尿が作られなくなり、毒素が溜まって吐き気・食欲不振・浮腫み・呼吸苦を起こしたりします。
腎臓疾患が怖いところは、末期状態になるまで症状がほとんど出ないことです。尿という「腎臓からの声」に早くから耳を傾けることが、非常に重要なのです。
健診などで尿の異常を指摘された(尿潜血※1、タンパク尿※2など)方や腎臓に関して不安があるという方もお気軽にご相談ください。
尿に赤血球が混じることを尿“潜血”と言い、一般には、目には見えず検査紙や顕微鏡などの検査レベルで確認されるもののことを言います(顕微鏡的血尿)。これに対して目で確認されるものを肉眼的血尿といいます。このような状態になるのは、前者では主に腎臓の細かい組織内での病気が多く(糸球体腎炎など:後述)、後者では腎臓、尿管、膀胱、および尿道に何らかの異常(結石、感染、悪性腫瘍など)が起きている場合です。 疲労などからくる一過性で害の無い尿潜血もありますが、放置してはいけないケースも多く、尿潜血を指摘されたら一度は必ず医療機関を受診し、原因を明らかにしておいてください。
尿の中にタンパク質が出てしまうのがタンパク尿です。タンパク質は体にとって大事な成分であるため、本来は尿中に出ることはありません。タンパク質が検出されるのは、血液濾過臓器である腎臓になんらかの原因で“大きな穴”が沢山出来、傷ついている証拠です。さらにこのタンパク質は腎臓の中で第二・第三の障害を生み、腎臓の傷害を加速させます。原因として考えられるのは、急性腎炎や慢性腎炎などの腎臓に限定される病気の場合と、糖尿病、高血圧、自己免疫疾患として知られる膠原病(こうげんびょう)など、全身疾患の一部として腎臓に障害が起きる場合があります。原因によって、治療法もそれぞれ異なりますので、まずは正確な診断が必要になります。
こんな方に受診をお勧めします
…など
腎臓内科の主な対象疾患
…など
腎臓内科でよくみられる主な症状・対象疾患
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)
慢性に経過するすべての腎臓病の総称が慢性腎臓病です。患者数は1,330万人(20歳以上の成人の8人に1人)いると言われ、“新たな国民病”とも見られています。腎臓は体を正常な状態に保つ重要な役割を担っているので、慢性腎臓病によって腎機能が低下し続けると、様々な健康リスクが生じてきます。
慢性腎臓病は、「何らかの原因で腎臓の濾過機能の低下がみられる、または尿にタンパク質が出る状態が3ヵ月以上続く」ような場合に診断されます。この疾患は生活習慣病(高血圧、糖尿病など)や、肥満・メタボリックシンドロームとの関連性も強く、誰もが罹る可能性があります。他にも腎炎などでも起こります。治療としては、生活習慣病をそれ以上悪化させないように食事療法(塩分とタンパク質の制限など)や運動療法(有酸素運動やストレッチ、体操・ヨガなどの軽い筋力トレーニング)による生活習慣の改善、血圧を下げ腎臓を保護するための降圧薬の服用(ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬)を、糖尿病の方であれば腎保護作用のある薬(ACE阻害薬、ARB、SGLT2阻害薬)を、肥満の方であれば減量(糖質・カロリー制限)に努め、標準体重になることを目指します。喫煙もCKD進展のリスクであり、可及的速やかに減煙・禁煙することが望まれます。睡眠時無呼吸症候群もCKD進展のリスクですので、減量やCPAP装着などの対応が必要です。
今、なぜCKDが重要か。
ここでは腎臓だけについてお話ししてきましたが、腎臓は一つの臓器としてだけでなく、全身の臓器と連動して働いています。さらに腎臓も他の臓器も一つの血管で繋がっているので、糖尿病・高血圧のように全身の血管が痛みやすい疾患では、腎臓が障害を受けているときは既に心臓・脳をはじめ全身の臓器が同時に障害を受けているのです。
がんと同じく、腎臓病にも重症度(グループ)分類があります。ご覧のように、グループが進むと腎臓病のリスクすなわち末期腎不全への移行するリスクが高まります。
腎臓病のグループ分類は、血液検査(血清クレアチニン値)・年齢・性別でGFRを、尿検査で蛋白(糖尿病の方はアルブミン測定)を用いて判定・区分します。
また、これらの色分けは腎臓のリスクを示すだけではありません。前述の理由で、心血管事故(心筋梗塞・狭心症・脳卒中など)で亡くなるリスクも示しており、橙や赤では非常に高くなるのです。
腎不全になると人工透析を行うことはご存知の方も多いと思いますが、腎不全の方で人工透析を開始する前に心血管事故で亡くなる方が非常に多いのも事実です。
「腎臓を守ることは生命を守ること」これは私が研鑽を積んだ東北大学病院 腎・高血圧・内分泌科の恩師である伊藤貞嘉教授の金言です。腎臓はまさに人体のかなめです。腎臓は尿検査で早期から異常を簡単に異常を知らせてくれますが、心臓や脳はなかなか異常を知らせてくれることはありません。MRIやエコーなど検査も大変です。簡便に情報が得られる尿は腎臓からだけでなく、身体からの叫び声であり、早くからこの声に“耳を傾ける”必要があるのです。当院では“木を見て(診て)、森を見る(診る)”診療を心がけます。皆様もぜひ一緒に“聞く耳”を持って、大事な体を守っていきましょう。
腎不全の種類
腎不全とは、腎機能が低下して正常に働かなくなった状態を言い、急性腎不全と慢性腎不全の2種類があります。
急性腎不全は、何らかの原因によって腎機能が急速に低下し、老廃物がうまく排出されなくなった状態です。治療では、急性腎不全となった原因に対するものと、腎不全から回復するまでの腎不全期の管理の2つから成ります。
一方の慢性腎不全では、慢性の腎臓病が徐々に悪化し、腎機能は低下していきます。慢性腎不全が進行して末期腎不全の段階に至ると、腎機能が極度に低下し、そのままでは生命を維持できなくなるため、腎臓の働きを補う人工透析、あるいは根治療法である腎移植が必要になります。
慢性腎不全の合併症
腎不全では全身症状が出ます、すなわち腎臓だけの症状に留まることはありません。腎臓は全身血管と繋がっている細小血管の集合体であるため、腎臓が障害をうけ進行した状態(特に糖尿病・高血圧が原因のケース)では、全身の臓器もすでに障害を受けリスクにさらされていることになります。腎不全の管理はもちろん、全身の管理も同時におこなっていく必要があります。
末期腎不全の症状(ESKD) -尿毒症-
これらの症状が見られる状態を尿毒症と言われ、末期腎不全にならないとなかなか見られません。逆に、症状を認めた時にはすでに末期腎不全の状態となっており、速やかに血液浄化療法(いわゆる透析)を開始しなければなりません。
※透析療法には血液透析と腹膜透析がありますが、主に前者が行われています。
※血液透析を行うには、血液浄化装置と身体をつなげる必要があります。基本的に、利き手と逆の腕にアクセス用の血管を造設する手術(局所麻酔下・専門施設で)を行います。緊急透析の場合は、透析用カテーテルを挿入して行います。
※当院では透析療法を行っておりません。透析導入は近くの総合病院で、その後の維持透析は透析クリニックへ通院し行って頂きます。
CKD患者 のグループ別治療と管理目標
日本腎臓学会 CKD の発症予防・早期発見・重症化予防に向けた提言 作成委員会 作成
腎臓は食事・喫煙など様々な生活因子の影響を受けるため、腎臓病になると減塩などの食事療法や腎保護薬を中心とした薬物療法を厳格に行わなければなりません。一目瞭然ですが、病期(グループ・Gと表記 )が進むと様々な合併症・異常所見に対する治療が多岐に渡り、管理は徐々に困難になります。末期腎不全(ESKD・G5)に進行させないために早期発見・早期治療をすることが重要です。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は、糖尿病性末梢神経障害や糖尿病性網膜症と共に、糖尿病の3大合併症のひとつです。
腎臓は細小血管の集まりであり、特に血液を濾過する糸球体は全身の血管が細分化し毛細血管となっている組織です。血糖値が高い状態が10年程度続くと、全身及び腎臓の血管が障害され、糸球体も障害を受け濾過機能が障害されます。この障害はタンパク尿として現れます。特にその一種であるアルブミン尿の検出は非常に重要であり、微量に検出される時期から治療介入しなければ糖尿病性腎症は進行していきます。
糖尿病は病状が進行すると腎機能が悪化し、やがて腎不全を引き起こします。腎不全の症状は先述の通りです。初期の場合は、自覚症状がほぼありません。むくみなどの自覚症状が出た場合は、かなり病状が進行しており腎機能はほとんどのケースで改善することはありません。最終的に尿がつくれなくなってきます。その結果、体内に老廃物が溜まり、尿毒症を引き起こすようになるのです。そして、人工透析という機械で血液の不要な成分を濾過し浄化する治療が必要となります。現在、人工透析導入患者の原因疾患の第一は糖尿病性腎症です。
治療については、初期より食事療法と運動療法を基本として血糖そして血圧のコントロールをしっかり行い、悪化させないようにします。特にアルブミン尿・タンパク尿を減らすべく、降圧剤の服用やタンパク質を制限する食事療法なども行います。
高血圧性腎硬化症
高血圧を原因とする腎障害が高血圧性腎硬化症です。高血圧が長い期間にわたって続くと、腎臓の血管に動脈硬化が生じてきます。このために血管の内腔が狭くなり、腎臓を流れる血液量が減少し腎臓は萎縮して硬くなり、その機能も低下をきたします。これが高血圧性腎硬化症を発症するメカニズムです。一般に加齢による疾患ですが、最近ではメタボリック症候群や喫煙等のため動脈硬化がきているケースも多くなっています。
治療の基本は、血圧コントロールであり、そのためには減塩・減量・禁煙といった生活習慣の改善や適切な降圧薬による治療が必要です。このような高血圧の治療とともに、併行して定期的に血液・尿検査による腎機能評価を行うことも、この疾患を進行させないための重要なポイントです。
ネフローゼ症候群
腎臓病には多くの種類がありますが、なかでも大量の蛋白尿が出る疾患群をネフローゼ症候群といいます。
血液中のタンパク質が著しく減り(低タンパク血症)、その結果、むくみ、体重増加、だるさ、尿の泡立ちなどが起こります。低タンパク血症の反動で著明な脂質異常症にもなります。高度になると血管の中が極度に脱水となり、血栓症(肺梗塞など)や感染症などを合併する危険性もあり迅速な対応が必要です。ネフローゼ症候群の診断にあたっては、一般に腎臓の針生検を含めた詳細な検査が行われます。原因は糸球体の障害であり、特殊な疾患(腎炎・悪性腫瘍合併例など)、自己免疫疾患や感染症(肝炎ウィルス)、代謝性疾患(糖尿病など)、薬物によるものが知られています。
成人ネフローゼ症候群の診断基準
治療は、むくみをコントロールする対症療法(塩分制限や利尿薬など)と原因治療(ステロイド薬など)を行います。また、大量のタンパク尿が長期間続くと腎機能が低下するため、長期間にわたって尿タンパクを減らす治療を継続する必要があります。
糸球体腎炎
腎臓の濾過装置である糸球体に炎症が生じることによって、タンパク尿や血尿が出る疾患を総じて糸球体腎炎と言い、その主なものに急性糸球体腎炎と慢性糸球体腎炎の2種類があります。
急性糸球体腎炎は、咽頭炎や扁桃炎などの感染症(主にA群β溶連菌によるもの)の1~3週間後にタンパク尿・血尿、尿量減少、むくみ、高血圧で発症する一過性の急性腎炎症候群です。小児や若年者に多い疾患ですが、成人にもみられます。治療としては、安静のほか、水、塩分、タンパク質の摂取制限が行われます。また、急性期には溶連菌感染に対する抗生物質の投与、高血圧に対しては降圧薬と利尿薬が使用されることもあります。ほとんどのケースで、後遺症も無く治癒します。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は、タンパク尿や血尿が長期間(少なくとも1年以上)持続するものを言います。原因としては、免疫反応の異常によるものが多いと考えられています。症状はほとんどみられませんが、タンパク尿や血尿のほか高血圧をきたし、腎不全の原因にもなり得ます。治療の基本は、降圧薬(RA系阻害薬)、抗血小板薬などによる薬物療法と食事療法(塩分制限・タンパク制限など)です。
腎結石
腎臓内に生じた結石を腎結石と言います。そのできる場所によって、腎杯結石、腎盂結石などに分かれ、それらが大きくなったものをサンゴ状結石と呼ぶこともあります。
腎臓内にある場合は、ほとんど痛みが無いと言われます。しかし、結石が腎臓から尿管に移動し詰まると、腰から背中にかけての激しい痛みを引き起こします。診断は尿検査、腹部X線撮影、超音波検査、CT検査によって行われます。
治療については、まず痛みを抑え、結石が小さい場合は自然排石を待ちます。しかし、大きな結石や自然排石が難しいと判断されたケースでは、体外衝撃波結石破砕手術(ESWL)やレーザー砕石器などを用いた内視鏡手術での治療になります。また再発予防のためには食生活の改善が必要となります。
※腎結石を含む尿路結石症の検査・治療は泌尿器科で行われますので、ご了承ください。
腎動脈狭窄症
概念:左右の腎臓に向かって流れる血管(腎動脈)の中が狭くなる病気です。 結果として腎臓への血流量が低下しその働きが落ち、最終的にその腎臓は萎縮してしまい機能しなくなります。 この過程で、血流が乏しくなった腎臓から血圧を上げる物質(レニン)が分泌され血圧は上昇します(腎血管性高血圧)。そのため、 高血圧の精査段階で見つかることがあります。また、検診などで 腎臓のサイズの左右差 を指摘されて見つかるケースもあります。
原因:①動脈硬化性、②線維筋性異形成(FMD)、③その他
①高血圧・喫煙・加齢・脂質異常などで動脈硬化を来したケースです。
②若年者(女性に多い)に起こる特殊で稀なケースです。
③血管奇形・大動脈疾患などによるケースです。
病型:片側性、両側性
検査:血液中のレニン・アルドステロンの測定や負荷試験を行うこともありますが、エコーやCT・MRIなどの画像検査がより有効です。
治療:②のFMDでは一般にカテーテル検査・治療(PTRA)を行い、血管拡張術を施し血流の回復を目指します。
一方、①の動脈硬化性ではカテーテル治療による成績:腎予後は芳しくなく、現在は内科的治療(降圧薬・脂質治療薬・抗血小板薬・禁煙など)を選択するケースが多いです。
ただし、両側性の狭窄例では心不全・肺水腫など全身への悪影響が懸念されるため、動脈硬化性病変であってもカテーテル治療を行います。(むしろ、ARBなどの一部降圧薬は禁忌となっています)