副腎とは
左右の腎臓の上にある小さな内分泌臓器が副腎です。副腎は「おにぎり」のような構造になっており、外側のお米の部分を“皮質”、内側の具の部分を“髄質”といい、前者からはステロイドホルモンとして知られる副腎皮質ホルモン、後者からはアドレナリンなどで知られる副腎髄質ホルモンが分泌されています。いずれも生命の維持に不可欠なホルモンです。
主な副腎ホルモン
- コルチゾール
- アルドステロン
- アンドロゲン(男性ホルモン)
- デヒドロエピアンドロゲン(DHEA)
- プレグネノロン
- アドレナリン
- ノルアドレナリン
- ドパミン
副腎疾患には主に以下のような疾患があります。
副腎腫瘍
副腎腫瘍のほとんどは良性です。しかし、副腎腫瘍は他の臓器の腫瘍と比べホルモンを過剰に分泌するものがあるので、発見された際はその評価が必ず必要になります。
特に3-4cm以上のもの・形が歪なものは悪性の可能性があります。
CT・MRI・PET検査なども併せて行いましょう。
- 非機能性副腎腫瘍(副腎腫瘍のほぼ半数)(ホルモン分泌能は正常)
- 原発性アルドステロン症(アルドステロン過剰分泌)
- クッシング症候群(コルチゾール分泌)
- 褐色細胞腫・傍神経節種(アドレナリン過剰分泌)
- 性ホルモン産生腫瘍(非常に稀)
- 先天性副腎皮質過形成(成人では軽症)
- 副腎癌(分泌能は様々)
- 転移性副腎腫瘍(他の癌が副腎に転移:両側性)
- 悪性リンパ腫(両側性)
原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は副腎皮質ホルモンの一つであるアルドステロンが、必要以上に分泌される病気です。アルドステロンを産生する副腎腫瘍(ほとんど良性)ができるタイプと、腫瘍ではない過形成型や細胞集塊型といった異常によって起こるタイプがあります。また、最近では肥満・メタボリックシンドロームによってアルドステロン分泌が亢進し、あたかもアルドステロン症と診断されてしまうケースも多くあります。
そもそも、アルドステロンは脱水(塩分の喪失)を防ぎ血液中のミネラルバランスや血圧を調整するためのホルモンです。しかし、アルドステロン分泌が過剰になると、血管を異常に収縮させたり、腎臓において塩分(ナトリウム)が取り込まれ体内に貯留してしまいます。その結果、血液中に塩分と水分が増加するために、血管内の圧力が上昇し血圧が高くなります。また、塩分が取り込まれる代わりにカリウムが尿中に排泄され、重症の場合は低カリウム血症となり不整脈などの合併症※を生じます。
※危険な合併症と早期診断の意義
最近の統計では、本症は高血圧患者の2~10%を占めると考えられています。重症高血圧では20~30%を占めるといわれています。
通常の高血圧患者と比べて、心肥大・心不全・不整脈・脳卒中・腎不全を発症するリスクが非常に高いことが知られています。また、過剰なアルドステロンとその受容体は血圧値とは関係なくこれらの臓器障害を引き起こすこともわかっています。発見・治療が遅れると降圧薬がさらに増えたり、臓器障害が不可逆的になります。ですから、本症の早期発見・早期治療は非常に大事なのです。
すでに降圧薬に抵抗を示している高血圧の方は、これ以上悪化してリスクが高まることがないように一度精査を受けて下さい。最近では、肥満や睡眠時無呼吸症候群との合併も注目されており、これらに該当する方も一度検査が必要です。
治療は一般に、腫瘍性病変であれば腹腔鏡での副腎摘出手術を、そうでなければ薬物治療(アルドステロン拮抗薬・ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬)を行います。
診断に至るまでには、アルドステロン症の一次診断と上記2者(腫瘍性か否か)の鑑別を行う必要があります。前者はホルモン負荷試験(カプトプリル試験など)を、後者は副腎静脈採血というカテーテル検査を行います。当院ではまず前者を行い、後者が必要と判断した方だけを高度専門機関にご紹介します。
まずは血液中のアルドステロン濃度を測ることが診断への第一歩です。一度かかりつけ医或いは当院までご相談下さい。
※2021年4月より血中アルドステロン濃度の測定法が変わり、以前と数値の基準範囲が変わりました。
以前より値が低くなっていても、原発性アルドステロン症の可能性があるので該当する方は今一度ご確認・ご相談下さい。
クッシング症候群
コルチゾールを過剰に産生する副腎の腫瘍に起因する病気です。前述の通り、コルチゾールはストレスに対峙するためにも重要なホルモンですが、従来は日内変動(朝高く、夜低い)があります。他にも血糖・血圧などの調整を行なっています。世間ではいわゆるステロイドと言われているものの代表格です。
クッシング症候群は、昼夜問わず常に血液中のコルチゾール濃度が高いためため、長期間続くことで以下のような合併症を引き起こします。
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満
- 骨粗鬆症
- 筋力低下
- 感染症
- 胃潰瘍 など
また、蛋白分解・脂肪沈着や血管炎症を反映し、満月の様な顔、カエルの様なお腹、バッファローの様な肩コブ、出血を伴った妊娠線のようなものができます(クッシング徴候)。
診断にはホルモン採血と負荷試験が必要になります(当院で可能)。またCT検査を行い副腎に腫瘍が存在することを確認します。
治療は基本的に内視鏡(腹腔鏡)での腫瘍摘出手術になりますので、専門施設への紹介を致します。
◎症状に出ないクッシング症候群の存在
また、上記のような症状が出ない「サブクリニカル・クッシング症候群」というタイプもあり、かえって発見が遅れ、糖尿病・高血圧・骨粗鬆症だけが重症化するケースもありますので、副腎に腫瘍を指摘された場合は一度は評価が必要です。治療方法については今も議論されていますが、進行例・重症例では内視鏡手術の対象になります。
◎薬剤性クッシング症候群
※なんらかの病気 のために、合成ステロイド製剤(プレドニゾロン・ベサメタゾンなど)を一定の量以上、そして一定の期間以上使用し続けていると、副作用でクッシング徴候や合併症を認めることになります。糖尿病・高血圧・骨粗鬆症・感染症・胃潰瘍・筋力低下・鬱などへの早期対応が必須になります。
また、逆にステロイド製剤を減量・中止する際には 離脱症候群 に注意する必要があります。
※リウマチ・SLE・気管支喘息・ネフローゼ症候群・腎炎・アトピー性皮膚炎・関節炎など多数
褐色細胞腫(傍神経節腫)
副腎髄質、あるいは大動脈や脊髄に沿った交感神経節細胞にできる腫瘍が褐色細胞腫です。腫瘍からはアドレナリンやノルアドレナリンという副腎髄質ホルモンが著明に分泌され、
- 高血圧(発作性、時に低血圧)・動悸・頭痛・体重減少・痩せ・発汗・血糖上昇 など
様々な症状が現れてきます。しかし最近では健康診断などの画像検査で症状が出る前に偶然見つかることもあります。稀な疾患ではありますが、悪性のケースもありますので放置は禁物です。豊富な治療経験のある専門機関で、正確な診断と的確な手術が必要となります。治療後も再発・転移の恐れがあるので、生涯にわたり定期検診が必要な病気です。当院では、本症のスクリーニング検査・判定を行うこと、治療後の定期フォローが可能ですので、ご相談ください。
副腎皮質機能低下症
副腎皮質機能低下症とは、アルドステロン、コルチゾールなどの副腎ホルモンの分泌が、生体の必要量以下に低下した状態を言います。症状としては、食欲低下、疲労感、筋力低下、筋肉痛、関節痛、嘔吐、腹痛、下痢、発汗、起立性低血圧、精神的な落ち込みなど、様々なものがあります。前述の副腎疲労症候群よりもはるかに重症であり、医学的にも明確に診断されるものです。
治療につきましては、不足するホルモンの補充療法になります。副腎機能の回復は期待できないので、ホルモンの補充療法を生涯にわたって続けることになります。治療を怠ると生命に関わる病気なので、専門医による指導と定期的な診察、そしてなにより確実な服用が必要となります。
◎ステロイド離脱症候群
なんらかの病気で長期間ステロイド治療をした場合(経口薬・経皮薬・関節注射など)、体は薬に依存することになり副腎はホルモン分泌機能を著しく失っています。もし、ステロイド治療を突然中断・終了すると、副腎皮質機能低下が露呈し非常に危険な状況になります。当然のことながら、医療機関ではステロイドを離脱する際は緩徐に用量を減らしていきますが、個人差があるので体調に合わせて慎重な管理が必要とされます。
副腎疲労症候群
副腎皮質ホルモン(主にコルチゾール)は普段から必要量分泌されていますが、ストレス(例:風邪・感染・怪我・緊張・精神的苦痛など)を受けるとこれらに対抗しようと通常より多く分泌されます。これによりストレスを受けたとしても全身の調子を維持することができるのです。しかし、長期にストレスを受け続けるとコルチゾールの産生・分泌が追い付かなくなってしまい、副腎は疲労していき、やがてホルモンバランスも崩れ、様々な症状に見舞われます。これが副腎疲労症候群と言われ、「慢性疲労症候群」の一つとして考えられています。
症状
朝起きられない、とにかく疲れやすい、食欲がない、立ちくらみがする、PMS(月経前症候群)が悪化した、性欲がない、花粉症・アレルギーがひどい、うつ病と診断された、などがあります。
治療
主に生活習慣の是正が重要ですが、食事療法やサプリメントの服用などがあります。食事療法では、ビタミンC、ビタミンB群、マグネシウム、亜鉛などを積極的に摂ることが勧められます。このほか、十分な休息と睡眠、ストレスの回避、コーヒーの飲用を控えるようにします。薬物治療としては重症例で必要に応じて副腎皮質ホルモン製剤の内服を行います。
内分泌性高血圧
内臓のホルモン分泌異常によって起こるタイプの高血圧です。原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫(傍神経節腫)などに代表されます。バセドウ病や橋本病でも高血圧になります。内分泌性高血圧は、早期に発見・診断し原因疾患を根本から治療できれば、完治あるいは降圧薬の減量、合併症のリスクを軽減させることができます。